フランス 地方の料理・家庭の料理 フランス料理 この多様なるもの
◆地方それぞれ フランス料理というのは、非常にとらえどころのない料理です。本を見ると、 ソースに特徴があるとか、煮込みに特徴がある料理だとか書かれていますが、 これは当たっているようでまた、全く的はずれでもあるんですね。
つまり、 言葉でイメージを組み立てることが非常にむずかしい。 たとえば、スペインとの境のピレネー山脈の方には、バスク語を話すバスク 人がいます。ブルターニュ地方ではブクターニュ語があって、一つの食文化 を持っている。ノルマンディーの方へ行くと、ここはワインではなくてリン ゴ酒のシードルから作るカルバドスという強いお酒があって、土地があまり 豊かではないので酪農が盛ん。 ミルク、クリーム、バターがたくさんとれる。
ベルギーとの境ではフラマン 語という言葉があって、ここの人たちはビールしか飲まない。それからアル ザス地方のワインはドイツ語風の名前が多く、キャベツの煮込みのシューク ルートをよく食べるし、ビールもよく飲む。そして、地中海の方ではニース 語があります。ナポレオンが生まれたコルシカ島には、コルシカ語という言 葉がまた別にある。
ざっと見てもフランスには、これだけの多民族というかいろんな文化が集ま っていて、それで共和国を作っているわけです。それを、これだけたくさん のものを統一しちゃおうといっても、やはり無理がある。アルザスのシュー クルートにはソースなんてないし、南の方のブイヤベースとこのシュークル ートには、何の接点もないわけです。
それから、フランス料理でコトコト煮込むというのは「ミジョテ」といって、 大事な基本のテクニックの一つだったんですけど、最近はもっと新鮮なもの を作った方がいいということで、ほとんど顧みられなくなっています。
フランスに限らずどこの国の料理でも、二つ三つを取り上げて それをもって頭から断じる、ということができないのは当然だろう。 近いためしが和食である。もちろん、無意識裡の共通理解とか、代 表的イメージの強烈さということはある。
また、多様性の度合いも あろう。しかしいずれにしろ、まず多様で、渾然としていることを 踏まえなければ、しょせんは郡盲象を評す類いに陥ってしまうのは 明らかなのだし、そこから出発すればおのずと、フランス料理の多 面的な楽しさ、深みに近づきやすいのではないか。酒井氏が「地方 の料理」とか「家庭の料理」という時、そこには、何かにつけ短絡 したがる世間の風潮へのアイロニーが込められているような気がす るのだが。
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